「”社長の影分身が、ほしかった”」 ──経営企画担当・正木さんが語る、AIまめこ社長との対話と理念浸透の本質
2026.3.3

AI社長 導入事例 インタビュー
企業名:株式会社豆子郎
事業内容:和菓子の製造・販売(山口県内12直営店舗)
従業員数: 約85〜90名
創業:創業78年(戦後創業)
導入サービス:AI社長「まめこ社長」
導入期間:1年
今回の語り手:正木 富之さん(経営企画担当/中途入社11年目)

はじめに
山口県で12店舗を展開する老舗和菓子店・株式会社豆子郎。
「おいしさを通じてお客様の喜びと幸せに貢献する」
という 理念を大切に、78年間味への追求を続けてきた企業です。
今回は、AI社長「まめこ社長」の導入を田原社長とともに推進した経営企画担当・正木さんに、大手企業からの転職経験 を持つからこそ見えた「理念浸透の壁」と、AIまめこ社長が 開いた可能性について語っていただきました。
1. 社長一人では届かない
——理念浸透の構造的な壁
正木さんが豆子郎に中途入社したのは11年前のこと。
── 前職と豆子郎で、理念の「重さ」は違いましたか?
「前職の大手企業でも ”お客様に喜んでもらう” という理念は掲げられていました。だから最初、豆子郎の理念をそれほど特別なものとは思っていませんでした。」
ところが、実際の場面になると判断の質がまったく違いました。
「クレームを受けた時の対応の姿勢やスピードが、大手で学んできたものとは、『ここまでやるんだ』って、全然違ったんですよね」
その差は、理念が「壁に飾られているもの」か「判断の基準になっているもの」かの違いから来ていたそう。
幸運だったのは、正木さんが入社当初から田原社長のすぐ傍で仕事をする機会を得たことでした。社長の判断を間近で見続けることで、豆子郎の「らしさ」を言語ではなく感覚として身につけていくことができたそうです。
しかし、それは同時に問題の発見でもありました。
自分が身につけたこの感覚を、どうやって組織全体に広げるのか。
「伝言ゲームと一緒ですから、人を通すと伝わり度が変わるじゃないですか」
正木さん自身が田原社長の考えを代弁しても、
それはすでに「正木さんフィルター」を通った言葉になってしまいます。
理念の浸透とは、突き詰めれば「社長の判断基準が、社員一人ひとりの中に宿るかどうか」の問題です。
しかし全社員が社長のそばで11年を過ごすことなど、できません。

2. 「影分身の術が使えたら」
——まめこ社長との出会い
田原社長がAI社長の導入を決めた時、正木さんへの伝え方は「決定事項の報告」でした。
「やるよ!」という一言とともに話が降りてきましたね。
生成AIについての知識も、当時はそれほど深くなかったといいます。社長から機能性の話を聞いた時、正木さんの中でひとつの言葉が浮かびました。
── AI社長と聞いた時、最初はどう思いましたか?
「一番は、田原社長がたくさんいて、いつもコミュニケーション取ってれば一番伝わるんですよ、シンプルに言うと。影分身の術を使って。一番それがいいんだけど、社長一人しかいないから、それがやっぱりできないよねっていうことで」
そして、AIを社内に導入する上で、AIにできること、人間にしかできないことを明確にしていたそうです。
「感情を乗せられないじゃないですか、AIって。
だからそこの部分では人の力が絶対必要だと思っています。ただ、知識とか認識のすり合わせ、あと振り返りにはできるかなと思ったので、まぁなんか一助になるっていうイメージはできるかもな、ぐらいの感じでしたね」
地に足のついた期待感を持って、AIまめこ社長との歩みが始まりました。
3. 「何のためか」を問われて、日常が理念と結びついた
── 実際に使ってみて、どうでしたか?
「『こういうことをしました』って報告すると、 『それはお客様にどんな価値を提供できましたか?』って 返ってくるんですよ」
日々の業務のなかで、AIまめこ社長との接点が最初に生まれたのは「日報」の場面だったそう。スタッフが「こういうことをしました」と入力すると、AIまめこ社長はこう返します。
──AIまめこ社長より
「それは、お客様にどんな価値を提供できましたか?」
単純な問いかけに見えますが、これが積み重なると意味が変わります。
「やったこと」を報告するだけでなく、
「それが何のためだったか」を問い直す習慣が生まれていきます。
正木さんは、あるスタッフによる聴覚に障害のあるお客様が来店した時のエピソードを聞かせてくれました。
スタッフが筆談で丁寧に対応したところ、
お客様は終始笑顔で「今日一番嬉しい出来事でした」と伝えてくれたそうです。
スタッフがその出来事をまめこ社長に報告すると、返ってきたのはこんな言葉でした。
──AIまめこ社長より
「あなたの行動は、豆子郎が大切にしている
『おいしさを通じてお客様の喜びと幸せに貢献する』という理念そのものです。お客様一人ひとりの状況に合わせて最適な対応を考え、実践したあなたの姿こそ、豆子郎の愛の表現です」
「お疲れ様」ではなく、「あなたは理念を体現した」という言葉。
この違いが、スタッフの次の行動を変えます。
豆子郎の78年と田原社長の哲学を知っているAIだからこそ、初めて言える言葉です。
4. “らしさ”をAIに宿すことの、難しさと可能性
一方で、正木さんはまめこ社長に対して、ある要望も率直にお話してくれました。
── 正直、「ここはまだ物足りない」と感じる部分はありますか?
「田原社長ってメッセージ性が強い方なので、
『どうですか?』よりかは『こうだよね』みたいな感じなんですよ」
汎用AIは「選択肢を3つ出す」「やり方を提案する」ことは得意です。
しかしそれは、田原社長がしないことでもあります。
田原社長は、考え方を問い、物の見方を示します。
「正解を与える」のではなく「どう見るか」を伝える。
そのスタイルをAIが完全再現できるかどうかは、「まだ疑問」
と正木さんは言います。
そのスタイルをAIが完全に再現できるかどうかは、正木さんの言葉を借りれば「まだ疑問」とのことです。

5. 汎用AIとの違いは「問い返し方」にあった
正木さんが感じるAIまめこ社長の本質的な価値は、
「答えを出す」ことではなく「問い返す」ことにあるそうです。
汎用AIに日報を送れば、きれいにまとめられた返答が返ってきます。
しかしそれは豆子郎の78年とも、田原社長の哲学とも、何のつながりもない言葉です。
AIまめこ社長が「それはお客様にどんな価値を提供できましたか?」と返す時、その問いの背後には豆子郎の理念が宿っています。
だからこそ社員は、自分の行動が会社の方向性と一致しているかどうかを、毎日小さく確認できる。
正木さんはこう締めくくります。
── 汎用AIと、まめこ社長の違いはどこにありますか?
「全部できるとは思っていない。でも、知識や認識のすり合わせの場として、判断を振り返る場として、AIまめこ社長はちゃんと機能している」
過剰な期待でも懐疑的な拒絶でもない。この言葉が、AI社長という存在の現在地を正確に表しています。
6. 理念があるのに現場に届かない、と感じている経営者へ
── どんな会社にAI社長を勧めたいですか?
「理念があって、社員にそれを本当に体感してほしいと思っている会社。でも社長一人では届かないと感じている会社」
大手では、仕組みやマニュアルで人を動かすことができます。
しかし中小企業の強みは、そこにはありません。
「この会社らしさ」「この社長の考え方」への共感が、顧客を引き寄せ、社員を動かします。その「らしさ」を社内に広げたい。でも社長は一人しかいない。
その矛盾を抱えている会社に、AI社長は最もフィットすると正木さんは感じているそうです。
影分身の術は、使えます。完全ではないけれど、確実に。

編集後記
取材当日、豆子郎さんにお伺いした際に、一杯のお茶をいただきました。
そのお茶が、あまりにも美味しくて。
思わず「このお茶へのこだわりも、何かあるんですか?」と聞いてしまったことから、お菓子づくりへの向き合い方を話してくださいました。
この材料を使う理由、この製法にこだわる理由——
それはただ「美味しいから」ではなく、
すべてお客様への想いに根ざしているものでした。
78年間、代替わりを経ても変わらない。
その理念が、お茶の一杯にまで宿っていることに、正直、胸が熱くなりました。
そしてふと思ったのです。
AIというものは、ともすれば「均一化」「効率化」の象徴として語られます。文化を薄め、個性を消してしまうものとして恐れられることもあります。
でも、まめこ社長は違いました。
豆子郎が78年かけて積み上げてきた文化を、壊すのではなく守るために存在している。この融合の形こそが、AIと人間が共存するひとつの正解なのかもしれない、
——そう感じた取材でした。
AIに対して「怖い」「思考が奪われる」と感じている方ほど、
ぜひ知っていただきたいと思います。
大切にしてきた文化は、AIによって奪われるのではなく、AIによってもっと強く、遠くまで届けることができる、ということを。
初出: note.com
